大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成7年(ネ)258号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

一  控訴の趣旨

1  原判決主文一項及び二項を取り消す。

2  右取消し部分である原判決主文一項に関する被控訴人の訴えを却下する(予備的にその請求を棄却する。)。

3  右取消し部分である原判決主文二項に関する被控訴人の請求を棄却する。

(なお、控訴状においては、控訴の趣旨として、『原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。』との記載があり、その後提出された準備書面〔平成七年五月二二日付〕には、『原判決第一ないし第三項を取り消す。被控訴人の請求第一ないし第三を却下する。』との記載があるが、控訴人の真意は前記記載の『控訴の趣旨』のとおりと認める。したがって、控訴人の卒業認定及び卒業証書の授与請求、近畿大学法学部在学確認請求部分については、当審の審判の対象にならない。仮に、控訴人において、一審で棄却された被控訴人の右請求部分について、その訴え却下を求めて控訴したとするならば、控訴の利益はなく、その部分は不適法として却下されることになる。)

二  事案の概要

次のとおり補正するほかは、原判決の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の補正部分

(一) 二枚目裏三行目の「自主退学勧告」から同九行目末尾までを「退学処分によって精神的苦痛を受けたとして、不法行為に基づき損害賠償を請求している。」に改める。

(二) 三枚目裏五行目の「証人生田隆」を「証人生田隆」に改める。

(三) 一〇枚目表九行目冒頭から一一枚目裏末行末尾までを削る。

2  当審における控訴人の主張

(一) 訴えの利益(確認の利益)の欠如について

被控訴人は、本件退学処分が無効であることの確認を求めている。しかし、被控訴人は、控訴人高校の協力の下、大学入学資格検定試験を受験し、同検定資格をもって関西大学を受験し、同大学に合格した。そして、現在、被控訴人は関西大学社会学部マスコミ科に在学中の学生である。

右のように、被控訴人は、既に関西大学に在学中の学生であり、本件退学処分の違法、適法の判断如何に拘らず、被控訴人の右地位は何等影響を受けない。したがって、被控訴人に本件退学処分が無効である旨の確認を求める利益は失われている。

(二) 原判決の判断に理由不備等の違法が存することについて

原判決は、懲戒処分である本件退学処分には校長の裁量権の逸脱が存し、同処分が違法である旨認定する。そして、退学処分の適法性判断を行うに際し、原判決は、校長の判断が社会通念上合理性を欠き、校長の判断に裁量権の逸脱が認められるときは、懲戒処分は違法・無効となるとの一般的基準を掲げ、右社会通念上の合理性を有するか否かの判断要素として、〈1〉本件行為の態様及び結果の軽量〈2〉本人の性格及び平素の行状等数項目の事項を挙げその各要件を検討する。しかし、原判決の右各要件に対する判断には、理由不備・理由齟齬・経験則違背といった違法が多々存する。

三  当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人の請求は原判決の認容の限度で理由があると判断するが、その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する(ただし、六項を除く。)。

1  原判決の補正部分

(一) 一二枚目表三行目の「前記争いのない事実」の次に「等」を加え、同五行目の「証人生田隆」を「証人生田隆」に改める。

(二) 一九枚目裏八、九行目の「性向不良」を「性行不良」に改める。

(三) 二三枚目表二、三行目の「前示3(一)(二)で認定した本件喫煙行為の態様、」を「右(2)で認定した」に改める。

(四) 二四枚目裏八行目冒頭から二六枚目裏一行目末尾までを削る。

2  当審における控訴人の主張に対する判断

(一) 訴えの利益(確認の利益)の欠如について

控訴人は、被控訴人は既に関西大学に在学中の学生であり、本件退学処分の違法、適法の判断如何に拘らず、被控訴人の右地位は何等影響を受けないので、被控訴人に本件退学処分の無効確認を求める利益は失われている旨主張する。

しかし、退学処分は、すでに先に補正、引用した原判決説示のとおり(原判決の「第三 争点に対する判断」欄の一の2の(二)・一九枚目裏二行目冒頭から二〇枚目裏二行目末尾まで参照)、他の懲戒処分とことなり生徒の身分を剥奪する重大な措置であることに鑑み、当該生徒に改善の見込みがなく、これを学外に排除することが社会通念からいって教育上やむをえないと認められる場合に限って選択すべきものである。そうすると、退学処分が行われた場合、そのことによって、被処分者が退学処分に相当する行為をしたとの判断がもたらされ、そのことが被処分者の名誉、信用につき消極的評価を生じさせる履歴となり(被処分者の履歴の正常性が失われた状態にあるといえる。)、その就職等にもさしさわるなど将来にわたって不利となるものであることは否定できない。

したがって、履歴の正常性は、退学処分の無効が確認されることによって回復されるべき法律上の利益に当たるということを妨げないものであって、被控訴人が大学入学資格検定試験により大学の入学資格を取得し、現在関西大学に在学中である(当事者間に争いがない。)ことを考慮にいれても、本件退学処分の無効確認の訴えの利益を肯定することができるものというべきであるから、控訴人の右主張は理由がない。

(二) 原判決の判断に理由不備等の違法が存することについて

控訴人は、原判決の本件退学処分が違法である旨の判断には、理由不備・理由齟齬・経験則違背といった違法が多々存する旨主張する。

しかし、右主張に即して検討しても、すでに補正した部分を除き原判決に誤りは認められないので、控訴人の右主張は理由がない。

3  以上によれば、被控訴人の本件請求は、本件退学処分の無効確認並びに不法行為に基づく損害賠償として五〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成五年四月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある。

よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

(裁判長裁判官 中川敏男 裁判官 北谷健一 裁判官 松本信弘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例